個人事業で店舗を経営している方やフリーランスで仕事をされている方が交通事故に遭ってけがをしたら、加害者へ休業損害を請求できます。
その際どのくらい金額を請求できるのか、また申告書の数字と実際の収入が異なるとき、申告をしていないとき、赤字の場合、昨年度より大幅に増収増益となっている場合にどうなるのかなど、必要な知識を解説していきます。
1.自営業者の基本的な休業損害計算方法
休業損害を計算する場合には、基本的に以下の計算式で計算をします。
- 1日あたりの基礎収入×休業日数
休業日数は現実に休んだ日数となりますから、あとは「1日あたりの基礎収入」をどうやって算定するかが問題です。
自営業者の場合には、事故の前年度の確定申告書の「所得」を参考にして基礎収入を算定するのが通常です。「所得」には、売上額から経費の金額を引いた利益の金額が書かれています。
ただし、事業を続けている限りたとえ休んでも「固定経費」はかかり続けます。そこで固定経費については所得に足して基礎収入を算定することが認められます。たとえば以下のような経費が、加算対象になります。
- 店舗や事務所の地代や家賃
- 駐車場代
- 水道光熱費
- 自動車保険料
- 火災保険料
- 自動車税
- 個人事業税
また所得を計算するときには青色申告の特別控除なども引かれていますが、これについては実際にはかかっていない経費なので、その金額も足します。
その合計額を、365日(うるう年の場合には366日)で割り算をして、1日あたりの基礎収入額を算定します。
2.確定申告書の記載と実際の収入が異なるとき
自営業者の場合、申告書に現実の収支と異なる記載をしている方がおられます。
申告書には少なめの収入を記載している場合、それを基準にされると休業損害の金額を減らされてしまいます。現実の収入を基礎として計算してもらうことはできないのでしょうか?
これについては、現実の収入を何らかの形で証明できれば請求できる可能性があります。たとえば通帳への入出金や帳簿類などの記録から実際の利益が判明するケースです。
ただ、通帳の記録のみから売上げと経費の支払いのすべてを立証するのは難しくなることも多いです。
3.赤字の場合
次に問題になりやすいのが、赤字の個人事業者です。赤字になっていたら収入は0なので、休業損害は認められないのでしょうか?
たとえ赤字であっても生活を維持するために働いているのですから損害が0というのは不合理です。そこで赤字の個人事業者にも休業損害が認められます。
計算の際には、赤字でも必ず支払わねばならない「固定経費」の分の合計額を参考にしたり、年齢別や業種別の平均賃金を参照したりして基礎収入を算定します。
4.申告していないとき
自営業者の場合、確定申告をしていないケースもあります。その場合には休業損害が認められないのでしょうか?
この場合にも、実際に収入があることを立証できれば休業損害を請求できる可能性があります。収入の資料がなければ平均賃金などを使って計算します。
5.昨年より大幅に増収増益となっている場合
自営業者の場合、昨年度よりも大幅に店舗展開など進めて劇的な増収増益となっているケースもあります。そのような場合、昨年度の収入をベースに基礎収入を算定されると不合理です。
こういったケースでは、昨年から今年度の売上げが大きく上がっている事実を証明できれば、増収増益したことを前提に基礎収入を算定できる可能性があります。
6.休業日数の証明方法
入院日数については問題なく認められるでしょうけれど、通院日数や自宅療養の日数については医師に診断書を書いてもらうなどして、慎重に対応する必要があります。それ以外にも休業日を顧客に知らせる書面、ネット上の営業日に関する画面、帳簿などのさまざまな資料を集めましょう。
自営業者が交通事故に遭うと、サラリーマンの方以上に難しい問題が発生するケースが多々あります。対応に迷われましたら、お早めに弁護士までご相談下さい。