交通事故に巻き込まれると、相手から「念書」を要求されるケースがあります。
安易に念書を差し入れると、後々大きなトラブルに発展したり不利益を受けたりするおそれがあるので、注意しましょう。
この記事では、そもそも「念書」とは何なのか、どこまでの法的効力が認められるのか弁護士が説明します。
1.念書とは
念書とは、何らかの約束ごとの内容を明らかにするため、一方当事者が他方当事者へ差し入れる書類です。たとえば交通事故の場合「賠償金として100万円を支払います」などと書いて、加害者が被害者へ念書を差し入れるケースがあります。
念書は契約書や合意書ではありません。契約書や合意書を作成するときには、細かい支払条件なども定めた上で当事者双方が署名押印します。これに対し念書の場合、内容は「支払います」などの簡単なものとなりますし、署名押印するのも一方当事者だけです。
交通事故に遭ったとき、相手から「ここで念書を書いてくれ」などと言われ、念書を書いて差し入れてしまう方がいます。しかし安易な気持ちで念書を書くと、後でトラブルになる可能性もあるので断る方が無難です。
2.念書の法的効力
念書は契約書や合意書ではない簡単な書類なので、法的効力がないと考える方もおられます。
しかし場合によっては念書による法的請求も認められます。法律上、契約は「口約束」によっても成立すると考えられているからです。念書に「100万円支払います」と書かれていれば、その時点で「100万円を支払う契約が成立した」証拠になるでしょう。
後に相手が念書を根拠に100万円請求してきたら、払わねばならない可能性があるのです。
この効果を知れば、簡単には念書を差し入れるべきでないと理解して頂けるでしょう。
3.交通事故現場で念書を差し入れるリスク
交通事故に遭ったとき、相手から要求されるままに念書を差し入れると、どういった問題が発生するのでしょうか?
3-1.必要以上の賠償金を請求される
交通事故で相手に損害を発生させてしまったら、賠償しなければなりません。ただ賠償の範囲は法的に決まっており、それを超える支払いは不要です。
しかし念書によって必要以上の支払いを約束してしまったら、その金額を払わねばならない可能性があります。
3-2.保険金の支払いがスムーズに進まない
交通事故の賠償金は、通常加入している任意保険会社が支払います。ただ保険会社は定められた基準の範囲内でしか支払をしません。当事者が勝手に念書で約束した金額を負担してくれるわけではないのです。
自己判断で念書を取り交わすと、保険会社からの保険金支払いがスムーズに進まなくなる可能性もありますし、最終的には保険金で足りない分を自腹で支払わねばならないリスクも発生します。
事故現場での念書差し入れには高いリスクがあるので、相手から求められても作成すべきではありません。
4.念書を求められたときの対処方法
事故現場で相手から念書を求められたら、以下のように対応しましょう。
4-1.保険会社に任せるので書けない、と断る
まずは「賠償金の支払は保険会社に任せるので、私から念書は書けません」と言って断りましょう。
4-2.書く場合には「金額」を書かない
相手がどうしても納得せず書かざるを得ない場合「金額を書かない」のが鉄則です。「修理費用(治療費)は保険から定められた範囲でお支払いします」などと書きましょう。
4-3.「賠償問題は保険会社に任せる」と書く
「賠償問題を保険会社に任せる」ことを明記するのもポイントとなります。
このように記載しておけば、相手が直接請求する根拠にはなりませんし、保険会社が対応しにくくなる危険もなく、スムーズに保険会社へ対応を任せられます。
たとえば「賠償問題の対応は全面的に保険会社に任せます」などと書いておくと良いでしょう。
交通事故現場で相手から念書や誓約書などの書面の差し入れを求められても、基本的には応じるべきではありません。困ったことがあれば、一度弁護士までご相談ください。