交通事故に遭うと、被害者に介護が必要となるケースが少なくありません。
たとえば植物状態(遷延性意識障害)や脊髄損傷で寝たきりとなってしまった場合、重度の高次脳機能障害で常時の看護が必要な場合などです。
介護が必要になったら相手に「介護費用」を請求できます。
ここでは介護費用をどのようにして計算するのか、千葉県の弁護士が解説します。
1.介護費用の計算方法
交通事故で介護が必要になると、一生涯にわたる介護を要します。
症状固定前に発生した介護費用だけではなく、その後の将来の分の介護費用も請求しなければなりません。このような将来必要になる介護費用を「将来介護費用」といいます。
1-1.将来介護費用の計算式
将来介護費用は、以下のような計算式によって計算します。
将来介護費用=1年にかかる介護費用×症状固定時の平均余命に対応するライプニッツ係数
以下でそれぞれの要素をどのように算出するのかご説明します。
1-2.1年にかかる介護費用の計算方法
1年にかかる介護費用は、家族が介護するのか職業介護士に介護を依頼するのかによって異なります。
家族が介護する場合、1日あたり8,000円として計算します。
職業介護士に依頼する場合には「実際にかかる金額(実費)」を基準に計算します。介護士に依頼した場合の実費はケースによりますが1日1~3万円程度です。
金額だけをみると職業介護士に依頼した方が高くなりますが、介護士へ支払いをしなければならないので手残りが大きくなるわけではありません。
一方、家族が介護する前提で示談すると実際の支出はないので手残りが大きくなりますが、家族に大きな負担がかかります。またしばらくの間は家族が介護できても、後に事情が変わって介護士に依頼するケースもあります。その場合、示談時に受け取っていた示談金が少額になっており損をしてしまうリスクがあります。
交通事故で介護が必要になった場合、家族介護を前提にするのか職業介護士に依頼するのか、慎重に検討する必要があるといえます。迷われたら弁護士がアドバイスいたしますので、ご相談下さい。
1-3.平均余命とは
将来介護費用は「平均余命」を基準として計算します。平均余命とは「その年齢の人が平均的にあと何年生きるか」という年数です。
単純に「平均寿命-年齢」で計算されるものではないので注意してください。
年齢ごとの平均余命は厚生労働省から発表されているので参照しましょう。
男性
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life18/dl/life18-06.pdf
女性
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life18/dl/life18-07.pdf
1-4.ライプニッツ係数とは
将来介護費用を計算するとき「ライプニッツ係数」を適用します。ライプニッツ係数とは、将来にわたって発生する費用を示談時に一括で受け取る利益を調整するための指数です。
本来、将来介護費用はその都度発生し受け取るべきものです。しかし当初にまとめて受け取るので、被害者には「運用利益」が生じると考えられます。その利益を「中間利息」といいますが、これを差し引くため、ライプニッツ係数を適用します。
ライプニッツ係数は2020年3月までは法定利率の5%を基準として算定されますが2020年4月からは民法改正によって法定利率が3%となるため、数字が変わります。
2.定期金方式とは
将来介護費用を「定期金方式」で受け取るケースもあります。定期金方式とは、示談時に一括で受け取るのではなく将来にわたって毎月などの定期的に介護費用を受け取る方法です。この方式なら中間利息を控除しないので、実際に必要な全額を受け取れるとも思えます。
ただ途中で保険会社が倒産・廃業するリスクや、何らかの理由で不払いにされるおそれがあります。将来にわたって延々と相手の保険会社との関わりが続くため、ストレスに感じる方もおられるでしょう。
定期金方式による支払いを提案されたとき、安易に受け入れるのは危険です。
交通事故で被害者に介護を要する状態になると、検討すべき問題が多数発生します。不利にならないように、ぜひとも弁護士までご相談下さい。