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交通事故を起こしたとき、加害者が絶対やってはいけないこと
交通事故を起こしてしまったとき、加害者として絶対にやってはいけないことがいくつかあります。
最近、芸能人が交通事故を起こしてニュースになる事例もよく耳にしますが、有名人でも「実は加害者がやってはいけないこと」をしてしまっているケースが少なくありません。
今回は専門家の立場から「事故を起こしたときにやってはいけないこと」をご紹介します。
車を運転される方は、ぜひ参考にしてみてください。
1.交通事故で加害者がやってはいけないこと3つ
交通事故を起こしたとき、以下のような行動は絶対にしてはなりません。
1-1,その場から立ち去る
事故を起こした直後、その場から立ち去ってはいけません。必ずすぐに車を停めて下車し、被害者を救護しましょう。救護しないと道路交通法上の「救護義務」違反となってしまいます。
救護義務違反はいわゆる「ひき逃げ」であり、非常に重い罪とされます。
「ちょっと用事を済ませてすぐに戻ってくる」という考えもNGです。どんなに急いでいても交通事故の方が重要ですので、用事は後回しにして事故対応を優先しましょう。
1-2.危険防止措置をとらない
交通事故が発生すると、車が道を塞いでしまったり破片が道路に散らばったりして危険が発生するケースが多々あります。
そんなとき、片付けもせず放置して二次災害が起こったら加害者の責任になってしまうでしょう。必ず車を脇に寄せて破片を片付け、後続車へ危険を知らせてください。こうした危険防止措置も交通事故加害者の義務です。
無視すると罰則も適用される可能性があるので、きちんと対応しましょう。
1-3.警察を呼ばないでその場で示談する
交通事故を起こすと、運転免許の停止や取消を恐れて「警察を呼ばずにその場で示談」しようとする方が少なくありません。
しかし警察への通報は、交通事故を起こした車両の運転者や同乗者の義務です。
警察を呼ばないと、道路交通法違反となって処罰される可能性があります。
またその場で示談すると、後に被害者から「予想外の後遺症が残った」などといわれてトラブルになるリスクも高まります。
事故を起こしたら必ず警察を呼び、示談交渉や賠償金の支払いは保険会社に任せましょう。
2.事故現場でやっておいた方が良いこと2つ
交通事故を起こしたとき、加害者の立場でも以下の対応はしておくようお勧めします。
2-1.現場の保存
事故現場の様子を保存しましょう。後に刑事事件や示談交渉の際「過失割合」が問題になる可能性があるからです。写真撮影をしたりメモをとったり図を書いたりして、できるだけ「記録」を残すようお勧めします。
2-2.連絡先の交換
被害者と連絡先を交換しましょう。示談交渉を保険会社に任せるとしても、保険会社に被害者の氏名や住所、加入している保険会社名など伝える必要がありあす。
保険に入っていない場合には、自分で示談交渉しなければなりません。
被害者の氏名、住所、電話番号、メールアドレス、加入している保険会社名(任意保険と自賠責保険)を確認しましょう。
3.交通事故加害者の罪が重くなりやすいパターン
以下のような場合、加害者の刑事責任や加点される免許の点数が大きくなりやすいので、注意が必要です。
3-1.飲酒運転
事故当時、飲酒運転していると刑罰も加点される点数も大きくなります。ただし飲酒運転の発覚を恐れて逃げるとさらに責任が重くなるので、絶対に逃げてはなりません。
3-2.ひき逃げ
被害者を救護せずに逃げると、刑罰も加点される免許の点数も高くなります。決して逃げずに責任をもって現場で対応しましょう。
3-3.スピード違反、信号無視
大幅なスピード違反や明らかな信号無視などの悪質な道路交通法違反があると、責任が重くなります。
3-4.反省しない
事故を起こしたにもかかわらず反省せずに不誠実な態度をとっていると、重い刑罰を科される可能性が高まります。
まとめ
交通事故を起こしたら、適切に対応しなければなりません。事故後の刑事事件や示談交渉などの対応に迷ったときには弁護士までご相談ください。
あおり運転の厳罰化について
近年、危険な「あおり運転」による痛ましい事故が発生して社会問題になっていました。
そこで2020年6月30日、改正道路交通法が施行され、あおり運転が厳しく処罰されるようになっています。
今回は「あおり運転」の厳罰化について、弁護士が解説します。
1.あおり運転でよくあるパターン
- 車間距離を詰める
後方の車が前方の車に必要以上に接近し、前方車両にプレッシャーをかける行為です。
- 幅寄せ
側方を走行している車が必要以上に接近してきてプレッシャーをかける行為です。
- 前に割り込み急停車、急減速
側方の道路から急に前に割り込んできて急停車・急減速します。割り込まれた車両は追突しそうになり、強い恐怖を感じます。
- クラクション、パッシング
不必要にクラクションを鳴らしたりパッシングをしたりして、前方や対面の車にプレッシャーをかける行為です。
2017年には東名高速道路で悪質なあおり運転の被害に遭った方が死亡する事故も発生して大きな問題になりました。
2.あおり運転厳罰化の内容
あおり運転については従来からいくつか規制や罰則規定がありましたが、不十分と指摘されていました。そこで法改正が行われ、以下のように厳罰化されています。
2-1.道路交通法で「妨害運転罪」を新設
道路交通法は、基本的な交通ルールを定める法律です。従来も「車間距離の保持」や「急ブレーキの禁止」などの規定はありましたが、これでは「前方に割り込んで急停車」などのあおり運転を規制できない問題がありました。
そこであらたに妨害運転罪が新設され、以下のような行為が明確に禁止されました。
- 車間距離の不保持
- 進路変更禁止違反
- 急ブレーキ
- 危険な追い越し行為
- 通行区分違反(対向車線へはみ出して走行)
- 不必要にクラクションを鳴らす(警音器使用制限違反)
- 不必要にパッシングする(減光等義務違反)
- 幅寄せや蛇行運転(安全運転義務違反)
- 高速道路で低速走行する(最低速度違反)
- 高速道路で駐停車する(高速自動車国道等駐停車違反)
2-2.妨害運転罪の罰則
妨害運転罪の罰則は、以下の2種類です。
通行妨害目的で危険を生じさせた場合
他の車両の通行妨害目的をもって妨害運転罪に該当する行為を行うと、以下の罰則が適用されます。
- 3年以下の懲役または50万円以下の罰金
特に高い危険を生じさせた場合
高速道路上で駐停車させるなど、妨害運転罪の中でも特に高い危険を発生させた場合には以下の刑罰が適用されます。
- 5年以下の懲役または100万円以下の罰金
2-3.自動車運転処罰法の改正
あおり運転厳罰化にともない、交通事故を起こしたときに適用される「自動車運転処罰法」も改正されました。
特に危険な運転をして交通事故を発生させた場合に成立する「危険運転致死傷罪」について、以下のあおり運転の類型が明記されました。
- 一定以上のスピードで走行している車の前方で停止、あるいは著しく接近する行為
- 高速道路や自動車専用道路において、走行中の自動車の前方で停止あるいは著しく接近し、対象車両を停止させたり徐行させたりする
危険運転致傷罪が成立すると、15年以下の懲役刑が適用されます。
危険運転によって被害者が死亡した場合には1年以上20年以下の有期懲役刑が適用されます。
3.あおり運転で交通事故を起こした場合の量刑について
あおり運転で交通事故を起こしたら、道路交通法違反と自動車運転処罰法違反の両方が成立します。すると「併合罪」として加重されるので、非常に重い刑罰を適用される可能性が高くなります。
まとめ
疲れていたり急いでいたりすると、悪気がなくても他の車をあおる行為をしてしまいがちです。また、自分が正しくルールを守っていてもあおり運転の被害に遭う可能性もあります。
万一あおり運転で交通事故に巻き込まれてしまったらすぐに警察を呼んで適切に対応しましょう。賠償問題などでトラブルになったら、弁護士がサポートいたしますのでお気軽にご相談ください。
自損事故の注意点
「自損事故」を起こしてしまったら、どのように対応すればよいかご存知でしょうか?
自損事故とは「単独の交通事故」です。通常の交通事故とは異なり「事故の相手」がいないので相手に賠償金の請求ができません。
今回は自損事故に遭った場合の正しい対処方法について、千葉の弁護士が解説します。
1.そもそも自損事故とは?具体例も含めて確認
自損事故とは「自分で自分に損害を発生させた交通事故」といった意味合いで、わかりやすくいうと「単独の交通事故」です。
たとえば以下のようなケースが自損事故の典型例です。
- ガードレールに衝突
- 家や施設、街路樹などに衝突
- 溝に落ちた
- 農道などで道路脇の田畑へ転落
自損事故の特徴は「相手がいない」ことです。通常の交通事故では、事故によって発生した治療費や車の修理費用などの損害賠償を相手に請求できますが、自損事故の場合には請求できる相手が存在しません。発生した損害は基本的に自分で填補しなければならないのです。
2.自損事故に遭った場合の対処方法
自損事故を起こしてしまったとき、どのように対応すればよいか、流れをみていきましょう。
2-1.警察に報告する
まずは必ず警察に報告しましょう。自損事故の場合「自分しかかかわっていないから警察に報告しなくて良い」と考える方がいますが、それは間違いです。道路交通法上、交通事故の当事者は警察に事故の内容や場所、発生時刻などを報告しなければならないと定められています(道路交通法72条1項後段)。警察へ報告しないと罰則が適用される可能性もあります。
また警察に報告しないと「交通事故証明書」が作成されません。この書類がないと交通事故が起こった事実を証明できず、保険金の請求が困難となってしまう可能性もあります。
2-2.警察に事故の状況を説明
警察が到着したら事故の状況を説明しましょう。
2-3.病院に行く
現場対応が終わったら、必ず病院に行きましょう。自覚がなくてもけがをしている可能性がありますし、以下の項目で説明する通り、けがをしていれば保険金や損害賠償金を請求できる可能性もあるからです。
3.自損事故と保険金
自損事故の場合、相手がいないので保険金を請求できないと思われがちですが実際には「自分の保険」を適用できるケースが少なくありません。自動車保険に以下のような保険がついていたら利用できるので、保険会社に申請しましょう。
- 人身傷害補償保険
被保険者や契約自動車に乗っていた人がけがをしたり死亡したりしたときに適用される保険です。治療費、休業損害、慰謝料や逸失利益などが支払われます。
- 搭乗者傷害保険
被保険者や契約自動車に乗っていた人がけがをしたり死亡したりしたときに適用される保険です。入院1日〇〇円、通院1日〇〇円などの「定額計算」で保険金が支払われます。
- 自損事故保険
自損事故を起こした人がけがをしたり死亡したりしたときに適用される保険です。金額は人身傷害補償保険より低くなるのが通常で、人身傷害補償保険と重複する場合には人身傷害補償保険のみの適用となります。
- 車両保険
自損事故で車両を損傷したときに適用される保険です。車両の修理費用等の物損について補償を受けられますが「免責額」があり、5万円程度までは自己負担となるケースが多数です。
4.自損事故で賠償金を請求できる可能性
自損事故では加害者がいないので賠償請求できないと思われがちですが、損害賠償請求できるケースがあります。それは「施設や道路が適切に管理されていなかった場合」です。
道路がでこぼこになっていたり陥没していたりしても放置されていた場合、道路上に危険物が放置されていた場合、施設の不適切な管理状況が原因で事故につながった場合などには、管理者や所有者へ損害賠償請求が可能です。治療費や休業損害、慰謝料などの発生した損害を管理者や所有者から支払ってもらえます。
自損事故に遭ったとき、賠償金や保険金の請求が可能か迷ってしまう方も多いでしょう。お困りでしたら交通事故の専門家が対応しますので、お気軽に弁護士までご相談ください。
レンタカーで交通事故を起こしたときの責任
レンタカーを利用中に交通事故を起こしたら、誰が賠償責任を負うのでしょうか?
レンタカーの場合、通常はレンタカー会社の保険が適用されるのでドライバーが全額を自己負担することはありません。ただしドライバーにも一部賠償義務が発生しますし、稀に保険が適用されないケースも存在します。
今回はレンタカーで交通事故を起こした場合の責任について、千葉の弁護士が解説します。
1.レンタカー会社の保険が適用される
交通事故を起こして相手にけがをさせてしまったり相手の車を損傷したりしたら、賠償金を払わねばなりません。レンタカーの場合、誰が賠償金を負担するのでしょうか?
実はレンタカーには「レンタカー会社が入っている自動車保険」がついています。多くの場合以下の4種類の保険が適用されます。
- 対人賠償責任保険
被害者(事故の相手方)に発生した人身損害(けがや後遺障害、死亡についての損害)を保障する保険です。多くのケースで「無制限」となっています。
- 対物賠償責任保険
被害者に発生した物損(車や施設の修理費用など)を保障する保険です。無制限となっているケースが多数です。
- 車両保険
レンタカー自体に発生した物損(修理費用など)を保障する保険です。車の時価までが保障されるケースが多数です。
- 人身傷害保険
レンタカーのドライバーや同乗者のけがや後遺障害、死亡などの人身損害を保障する保険です。1事故について3,000万円が限度額とされるケースが多数です。
ドライバーが別途自動車保険に入っていなくても上記のような保険が適用されるので、基本的に自己負担の必要はありません。
2.免責額と免責保証について
2-1.免責額とは
レンタカー会社の自動車保険では、ドライバーの負担額が0になるとは限りません。
対物賠償責任保険と車両保険に「免責額」が設定されているためです。免責額とは「その金額まではドライバーが自己負担しなければならない金額」です。
多くの場合、対物賠償責任保険も車両保険もそれぞれ免責額が「5万円」とされています。バスやトラックなどの大型車両をレンタルした場合には車両保険の免責額が10万円とされるケースが多数です。
以上より結局、相手に対する物損の賠償金はドライバーが5万円は負担しなければなりませんし、レンタカーの修理代についても最低5万円は負担する必要があります。
2-2.免責保証制度
レンタカーで交通事故を起こした場合、結局10万円は負担しなければならない可能性が高いのですが、これを0にする方法があります。それは「免責保証制度」です。
免責保証制度とは、一定金額を払うことによって免責額をなくしてもらう制度で「CDW」ともよばれます。
通常のレンタカー代に1,000円程度(24時間あたり)足せば免責保証してもらえるケースが多いので、心配な場合にはこれをつけておくと良いでしょう。
3.営業補償について
レンタカーで交通事故を起こした場合、営業補償にも注意が必要です。営業補償とは、レンタカーが事故車となって営業に使えなくなった損失に対する補償で「NOC」ともよばれます。
事故車となったレンタカーを自走できる場合には2万円程度、自走できずレッカーが必要となった場合には5万円程度の営業補償が必要となるケースが多数です。
営業補償については免責保証制度を適用しても免除されないので注意しましょう。
4.レンタカー会社の保険が適用されないケースについて
以下のような場合、レンタカー会社の自動車保険が適用されない可能性が高くなります。
- 契約時に申請していない人が運転した
- レンタカーの利用期限過ぎても返さずに延滞し、延滞中に事故を起こした
- 飲酒運転や無免許運転をした
- 事故を警察に報告しなかった(事故証明書が発行されない)
レンタカーを利用するとき、上記のようなルール違反をしてはいけません。
なおドライバー本人が自家用車の自動車保険に加入しており「他車運転特約」をつけていれば、そちらを適用して賠償金を支払ったり自分に発生した損害の補償を受けたりできます。
ただ他車運転特約を利用すると保険等級が3等級落ちて次年度からの保険料が高くなるので、慎重に判断した方が良いでしょう。
交通事故に関してお悩みや疑問、不安がありましたらお気軽に弁護士までご相談ください。
従業員が交通事故を起こした場合の会社の責任
従業員が交通事故を起こしてしまったら、会社にはどういった責任が及ぶのでしょうか?
雇用者である企業には、被害者への賠償金支払いなどの対応の他、労災に関する対応も要求されます。
今回は従業員が交通事故を起こしてしまった場合の会社の責任について弁護士が解説します。
1.従業員が交通事故を起こして会社に責任が発生するケース
従業員が交通事故を起こすと、雇用主である事業者にも責任が発生する可能性があります。
1-1.使用者責任
使用者責任とは、従業員を使って利益を得ている雇用主に発生する責任です。従業員が業務の遂行中に行った不法行為について、使用者に責任が及びます。
業務の遂行中かどうかは「外形的」に判断されるので、実際には業務中ではなくても外目に業務中のように見えれば使用者責任が発生する可能性があります。
- 営業外回り社員が営業車で交通事故を起こした
- 従業員が会社のロゴマークの入っている社用車で業務時間外に交通事故を起こした
- 従業員が業務時間中に仕事で使っているマイカーで交通事故を起こした
上記のような場合、使用者には使用者責任が発生するので、事故を起こした従業員本人と連帯して被害者へ賠償金を払わねばなりません。
1-2.運行供用者責任
会社には「運行供用者責任」も発生する可能性があります。運行供用者責任とは、自動車によって利益を受けているものが負うべき責任です。
車の運行を支配して利益を受けている場合に運行供用者責任が発生します。具体的には「車の所有者」には車に対する運行支配や運行利益があると考えられています。
事故を起こした車の「名義」が会社になっていれば、通常は会社に運行供用者責任が及ぶと考えましょう。
たとえば従業員が業務時間外に社名やロゴマークの入っていない社用車を運転していた場合には使用者責任は発生しませんが、車が社用車で会社名義になっていたら運行供用者責任が発生する可能性があります。
1-3.従業員が被害者になれば労災認定される
従業員が交通事故の「被害者」になる可能性についても考えておくべきです。従業員が通勤退勤途中や業務中に交通事故の被害に遭えば「労災」となります。
その場合、事業主としても労災保険の申請に協力したり労働基準監督署へ報告したりしなければなりません。
2.任意保険に入っていれば賠償問題は保険会社が対応する
会社に使用者責任や運行供用者責任が発生するケースでも、「任意保険」が適用される場合には難しい対応は不要です。
任意保険には対人対物賠償責任保険がついているので、被害者へ支払うべき賠償金は保険会社が負担します。また被害者との示談交渉も保険会社の担当者が進めるので、事業主が直接被害者と話し合ったり賠償金を支払ったりする必要はありません。
3.保険が適用されない場合の対処方法
任意保険が適用されない場合には会社や従業員自身が被害者と示談交渉を行って賠償金を支払わねばなりません。ただし事業者が被害者へ賠償金を支払った場合、事故を起こした従業員に対しては「求償」できます。求償とは、連帯債務者に対して本人の負担分を請求することです。
たとえば発生した損害が1,000万円で会社側の責任が4割、本人の責任が6割とします。この場合、会社が被害者へ1,000万円の全額を賠償したら、会社は従業員へ600万円を求償できます。
4.労災対応
従業員が交通事故でけがをした場合などには、労災対応が必要です。労災隠しは犯罪になるので、決してやってはなりません。
まず従業員が労災保険を申請する際には療養補償給付や休業補償給付用の申請に協力しましょう。労働者が休業する場合、1~3日目までの休業補償は事業主が行う必要があります。
また従業員がけがで休業したり死亡したりした場合、事業者は労働基準監督署へ「労働者死傷病報告」をしなければなりません。
交通事故が起こった原因が企業の管理不行届きや安全配慮義務違反による場合、企業が労働者へ損害賠償義務を負う可能性もあります。
自社従業員が交通事故を起こした場合、企業には状況に応じた適切な対応を要求されます。当事務所では千葉県の中小企業への法的支援やアドバイスを積極的に行っていますので、お気軽にご相談下さい。
飲酒運転の責任~刑事罰や免許の点数について~
近年では飲酒運転に対する厳罰化が進んでおり、飲酒状態で交通事故を起こしたら重い刑事責任が課されます。免許の点数も大きく加算され、免許停止や取消のリスクが発生します。
今回は飲酒運転に対しどのような刑罰や行政罰(免許の点数加算)があるのか、千葉の弁護士がご説明します。
1.2種類の飲酒運転
法律上、飲酒運転には2種類の分類があり罰則の内容が異なります。
1-1.酒気帯び運転
酒気帯び運転とは「呼気1リットル中に0.15㎎以上のアルコールを含んだ状態で運転すること」です。呼気検査によって判定します。
1-2.酒酔い運転
酒酔い運転とは「アルコールの影響によって正常に運転できない状態で運転すること」です。酩酊状態となってまっすぐ歩けなかったりろれつが回らなかったりする状態で運転すると「酒酔い運転」となります。呼気中のアルコール量とは無関係に、運転者の状態によって判定されます。
2.飲酒運転で加算される免許の点数
飲酒運転が発覚すると、ドライバーの運転免許の点数が大きく加算されます。
点数は以下の通りです。
2-1.酒気帯び運転のケース
- 呼気1リットル中に0.15㎎以上0.25㎎未満のアルコールが検出されたとき…13点の加算、90日間の免許停止処分
- 呼気1リットル中に0.25㎎以上のアルコールが検出されたとき…25点の加算、免許取消処分となり欠格期間が2年
2-2.酒酔い運転のケース
35点の加算、免許取消処分となり欠格期間が3年
前歴があると処分が重くなる
「前歴」があると上記よりさらに重い処分となります。前歴とは、過去3年間に交通違反によって免許停止や取消処分を受けた経歴です。たとえば1回でも前歴のある人が酒気帯び運転で呼気1リットル中に0.15~0.25㎎のアルコールが検出された場合、免許停止では済まず取消処分となります。
3.飲酒運転の刑罰
飲酒運転をすると、刑事罰も適用されます。
3-1.酒気帯び運転の罪
3年以下の懲役または50万円以下の罰金刑が適用されます。
3-2.酒酔い運転の罪
5年以下の懲役または100万円以下の罰金刑が適用されます。
3-3.同乗者の罪
飲酒運転が行われると、ドライバーだけではなく同乗者も処罰対象となります。
ドライバーがお酒を飲んでいると知りながらあえて「車に乗せてほしい」と依頼して運転させると、酒気帯び運転のケースで「2年以下の懲役または30万円以下の罰金刑」、酒酔い運転のケースでは「3年以下の懲役または50万円以下の罰金刑」が課されます。
3-4.お酒を勧めた人の罪
相手が車を運転する予定であることを知りながらお酒を勧めると、勧めた人にも刑事罰が適用されます。罰則の内容は酒気帯び運転のケースで「2年以下の懲役または30万円医科の罰金刑」、酒酔い運転のケースで「3年以下の懲役または50万円の罰金刑」となります。
4.飲酒運転で交通事故を起こすリスク
飲酒した状態で交通事故を起こすと、加害者には以下のようなリスクが発生します。
4-1.過失割合が高くなる
交通事故では、過失割合が高くなると相手に請求できる賠償金額が減額されてしまうので、不利になります。飲酒運転していると、通常の事案よりも5~20%程度過失割合が加算されます。
4-2.刑事罰が重くなる
飲酒運転で交通事故を起こすと、重い罪である「危険運転致死傷罪」が成立する可能性が高くなります。特に「酒酔い運転」で危険な交通事故を起こすと情状も悪くなり、長期間刑務所に行かねばならないリスクが高まります。
4-3.保険を適用できない可能性がある
通常の交通事故の場合、ドライバーが任意保険に入っていたら「人身傷害補償保険」や「搭乗者傷害保険」などを利用してけがに対する補償を受けられるものです。
しかし飲酒運転の場合これらの保険の適用を受けられず、治療費等が自腹になる可能性が高くなります。
なお飲酒運転でも被害者(事故の相手方)に対する対人対物賠償責任保険や自賠責保険は適用されます。
飲酒運転は、たとえ交通事故を起こさなくても本人や同乗者などに高いリスクを発生させます。まして事故を起こすと大変な不利益が及ぶので、軽い気持ちで飲酒運転をしないように注意しましょう。
ひき逃げの責任について~刑事罰、免許の点数~
交通事故を起こしたら、必ず「被害者の救護」をしなければなりません。救護をせずに「ひき逃げ」をしてしまったら、非常に重い刑罰が科される可能性が濃厚となります。
今回はひき逃げの場合に適用される刑事罰や行政罰(免許の点数加算)について、千葉の弁護士が解説します。
1.ひき逃げとは
ひき逃げとは、道路交通法上の「救護義務違反」の行為です。
交通事故の当事者には道路交通法上「けが人を救護する義務」が課されます(道路交通法72条1項前段)。その救護義務を守らずに、事故現場から去ってしまうと「ひき逃げ」になります。
救護義務が課される人は「交通事故時に車両を運転していた人や乗務員」です。加害者だけではなく被害者にも救護義務がありますし、四輪車や単車だけではなく自転車の運転者にも救護義務が及びます。
また「後で戻ってこよう」と思って立ち去ったとしても、現場から離れたらその時点で「ひき逃げ」になります。
交通事故に遭ったとき、誰かがけがをしていたら必ず「その場で停車して」応急処置を行い、必要に応じて救急車を呼びましょう。
2.ひき逃げで加算される点数
ひき逃げは非常に危険な行為なので、重い処分が科されます。
まず運転免許の点数が35点加算されるため、一回で免許取消となります。欠格期間は3年に及ぶので、以後3年間は免許を取得できません。
また交通事故による点数も加算されるので、実際には35点よりも大きく点数が上がります。たとえば加害者の一方的な過失によって死亡事故を起こすと20点が加算されるので、ひき逃げの35点と合わせて55点の加算となり、免許取消(欠格期間7年)となります。
3.ひき逃げに適用される刑事罰
ひき逃げは危険な道路交通法違反の行為なので、刑事罰も科されます。
交通事故の加害者がひき逃げをした場合の罰則は「10年以下の懲役または100万円以下の罰金刑」です。
また自動車運転処罰法違反の罪も成立します。
3-1.過失運転致死傷罪
通常程度の過失によって事故を起こした場合に成立する犯罪です。刑罰の内容は「7年以下の懲役もしくは禁固または100万円以下の罰金刑です。
ひき逃げをすると道路交通法違反の罪と「併合罪」になって刑罰が加重され、最長で15年の懲役刑や禁固刑が科される可能性があります。
3-2.危険運転致死傷罪
故意にも匹敵する危険な交通事故によって人を死傷させたときに成立する犯罪です。
刑罰の内容は、被害者がけがをしたときに「15年以下の懲役刑」、被害者が死亡したときに「1年以上の有期懲役刑」となります。
ひき逃げをすると併合罪加重により、被害者がけがをしたときに「最長22年6か月の懲役刑」、被害者が死亡したときに「最長30年の懲役刑」が適用される可能性があります。
3-3.実際の量刑が重くなる
ひき逃げをすると非常に情状が悪くなるため、単に刑罰の上限が引き上げられるだけではなく実際に適用される量刑も重くなります。たとえばひき逃げをしなければ不起訴で済むケースでも、ひき逃げしたために公判請求されて懲役刑が適用される可能性があります。
ひき逃げをしなければ執行猶予がつくはずの事案でも、ひき逃げをしたら実刑判決を受ける可能性が高まります。
ひき逃げをすると多大なリスクを負うこととなるので、決してしてはいけません。
4.ひき逃げの検挙数について
2019年の犯罪白書によると、2018年(平成30年)におけるひき逃げの検挙率は以下の通りとなっています。
4-1.死亡事故の検挙率
死亡事故に限ると検挙率は97.7%です。
4-2.重傷事故の検挙率
重傷事故の場合、75.5%となっています。
4-3.全体の検挙率
全件数の検挙率は60.8%です。
http://hakusyo1.moj.go.jp/jp/66/nfm/n66_2_4_1_1_3.html
重大事故になるほど検挙率が高く、逃れるのは困難といえるでしょう。
5.交通事故を起こした人の義務について
交通事故を起こした加害者には、「けが人を救護する義務」「二次被害を防止するために危険を除去する措置をとる義務」「警察に報告する義務」の3種類の義務が課されます。
これらの義務を守らずに現場を離れるとひき逃げとなり、重いペナルティを科されます。
絶対にひき逃げはしないことが何より重要といえますが、万が一ひき逃げをしてしまって気になっているならば、早めに弁護士までご相談下さい。
交通事故の加害者が負う3種類の責任と適切な対処方法
交通事故を起こしてしまったら、加害者にどのような責任が発生するかご存知でしょうか?
法的・制度的には以下の3種類の責任が発生します。
- 民事責任
- 刑事責任
- 行政上の責任
以下でそれぞれの具体的な内容と対処方法を説明していきます。
1.民事責任
民事責任とは、交通事故の被害者へ損害賠償をしなければならない責任です。
交通事故の被害者にはさまざまな損害が発生します。
車が壊れたら修理費用が必要ですし代車費用や評価損害が発生するケースもあります。
けがをさせたら治療費や休業損害が発生しますし、後遺障害が残ったらその補償も必要です。死亡させたら遺族に慰謝料や逸失利益を支払わねばなりません。
交通事故の加害者にはこうした損害賠償金を支払う義務があります。大きな損害を発生させると数千万円や億単位の賠償金支払義務が発生する可能性もあります。
支払いができない場合、被害者や被害者の遺族から訴訟を起こされ、判決が出たら資産や給料などを取り立てられます。どうしても支払いができなければ自己破産をするしかありませんが、人身損害については破産しても免責されない可能性もあります。
対処方法
交通事故を起こしたときの民事責任に対応するには、きっちり保険に加入しておくことが何より重要です。任意保険の「対物賠償責任保険」「対人賠償責任保険」に入っておけば、賠償金については保険会社が支払ってくれます。ただし保険金は「限度額」までしか支払われないので、特に対人賠償責任保険については必ず「限度額」を無制限にしておくことをお勧めします。
2.刑事責任
刑事責任とは、犯罪行為をしたものに刑罰が適用される責任です。交通事故の中でも「人身事故」を起こすと「自動車運転処罰法」という法律によって刑罰を科される可能性があります。
自動車運転処罰法によって規定されている交通犯罪は、主に以下の2種類です。
2-1.過失運転致死傷罪
故意や過失によって交通事故を起こし、被害者を死傷させた場合に成立する犯罪です。通常の交通事故の加害者には過失運転致死傷罪が成立すると考えましょう。刑罰は7年以下の懲役または禁固もしくは100万円以下の罰金刑です。
2-2.危険運転致死傷罪
危険運転致死傷罪は、故意や、故意とも同視できるくらいに重大な過失によって発生させた悪質な交通事故の加害者に成立する犯罪です。故意に人が集まっている場所に車でつっこんだり酩酊状態で運転していて危険な交通事故を起こしたり異常なスピードを出して人を死傷させたときなどに成立します。
刑罰は、傷害の場合に15年以下の懲役刑、死亡させた場合には1年以上の有期懲役刑となります。
また交通事故時に飲酒運転や無免許運転をしていたりひき逃げしたりすると「道路交通法違反」となりさらに重い罪が適用されます。
対処方法
刑事責任に対処するには、検察官や裁判所へ「良い情状」を立証する必要があります。
たとえば被疑者(被告人)がしっかり反省していることを示し、早期に被害者と示談を成立させることで、適用される刑罰が軽くなる可能性があります。そのためには優秀な刑事弁護人に弁護を依頼する対処方法が有効です。
3.行政上の責任
交通事故の中でも人身事故を起こすと、運転免許の点数が加算されます。免許の点数が一定以上になると免許の効力を停止されたり免許を取り消されたりします。これを「行政上の責任」といいます。
加算される点数は、起こした交通事故が重大になるほど高くなります。たとえば死亡事故を起こしたら、一回の交通事故でも免許取消となります。
免許を取り消されたら「欠格期間」が発生し、その間は免許の再取得ができなくなります。
対処方法
90日以上の免許の停止や取消処分が行われる際には、公安委員会において「意見の聴取」が行われます。その際に少しでも処分を軽くしてもらえるよう、主張をしたり証拠を提出したりしましょう。
交通事故を起こしたとき、受ける不利益をなるべく小さくするには法的な知識と対応するためのスキルが必要です。お困りの際には弁護士がサポートしますので、お早めにご相談下さい。
自動車の所有者の責任~運行供用者責任とは~
交通事故に遭ったとき、直接の加害者だけではなく事故車の所有者などの第三者へ「運行供用者責任」を問えるケースがあります。
運行供用者責任とは、自賠法にもとづいて一定の範囲の人に認められる責任です。民法上の「不法行為にもとづく損害賠償責任」とは異なり、直接の加害者以外の人に損害賠償請求できる可能性があり、被害者の立証責任も軽減されます。
今回は運行供用者責任について、ご説明します。
1.運行供用者責任とは
運行供用者責任とは、人身事故が発生したときに車の所有者など「運行を支配し利益を受けている人」に発生する責任です。自賠法3条により「自動車の運転を支配し」「自動車の運転から利益を受けている」人に発生します。
通常、交通事故が起こったら「加害者」に対して損害賠償請求をしますが、直接の加害者が保険に入っていなかったり資力がなかったりして、満足な支払いを受けられないケースもあります。そのようなとき「運行供用者責任」を主張すれば、車の所有者などの他の人に対する損害賠償請求が可能となります。
2.運行支配と運行利益
自賠法にもとづく運行供用者責任が発生するには、請求相手に「運行利益」と「運行支配」が必要です。この2つがどういったものなのか、詳しくみてみましょう。
2-1.運行利益とは
運行利益とは、自動車の運転によって利益を受けていることです。たとえば会社が従業員に車を運転させている場合、会社は自動車の運転によって利益を受けていると言えます。
2-2.運行支配とは
運行支配とは、自動車の運転をコントロールする立場にあることです。たとえば車の所有者には通常運行支配性が認められます。
近年では運行利益と運行支配を厳密に分けて検討せず、「運行利益を含めた運行支配」によって運行供用者責任を認めるべきとする考え方も有力となっています。
3.運行供用者責任の立証責任
運行供用者責任と一般の不法行為責任では、被害者の立証の難易度が異なります。
一般の不法行為の場合、以下の要件の立証が必要です。
- 加害者の故意過失にもとづく行為
- 因果関係
- 損害発生
一方運行供用者責任の場合、以下の要件を立証すれば足ります。
- 運行供用者性(運行利益と運行支配)
- 自動車の運転
- 損害発生(人身損害に限られる)
つまり運行供用者責任の場合、被害者は「加害者の故意過失による行為」を立証する必要がありません。加害者側が責任を免れるために「故意過失がなかったこと」「第三者に責任があったこと」などを証明する必要があります。被害者にとっては立証が容易です。
4.運行供用者責任が認められる具体例
具体的にどういったケースにおいて運行供用者責任が発生するのでしょうか?
4-1.自動車を知人、友人に貸していた
自動車を貸していた知人や友人が事故を起こした場合、所有者に運行供用者責任が発生します。
4-2.レンタカー会社
レンタカーで事故が発生したときにはレンタカー会社に運行供用者責任が認められるケースが多数です。ただし利用者が返却期間を過ぎても返却しなかった場合などにはレンタカー会社に責任が発生しない可能性があります。
4-3.会社が従業員に運転させていた
会社が従業員に営業車などを運転させていた場合、会社に運行供用者責任が発生します。
4-4.自動車を放置していた
自動車をきちんと管理せず放置していたために、誰かに使われて事故が起こったときには所有者に運行供用者責任が発生します。
5.運行供用者責任が否定される例
5-1.リース会社
車のリース会社には運行支配がないので、運行供用者責任が認められないのが通常です。
5-2.所有権留保しているローン会社
所有権留保をする場合、車の名義はローン会社になっています。しかしローン会社は実際に運行を支配していないので運行供用者責任は認められないのが通常です。
5-3.過失なく自動車を盗まれた
きちんと車を管理していたのに盗難被害に遭い窃盗犯などが事故を起こした場合、所有者には運行供用者責任が発生しません。
6.運行供用者責任は人身損害に限られる
運行供用者責任が発生するのは人身損害に限られ、物損については責任が認められません。
交通事故に遭ったとき、直接の加害者以外の人に請求できるケースや方法は意外とたくさんあります。直接の加害者から支払いを受けられなくてお困りの場合でも、あきらめずに弁護士までご相談下さい。