交通事故に遭ったとき、直接の加害者だけではなく事故車の所有者などの第三者へ「運行供用者責任」を問えるケースがあります。
運行供用者責任とは、自賠法にもとづいて一定の範囲の人に認められる責任です。民法上の「不法行為にもとづく損害賠償責任」とは異なり、直接の加害者以外の人に損害賠償請求できる可能性があり、被害者の立証責任も軽減されます。
今回は運行供用者責任について、ご説明します。
1.運行供用者責任とは
運行供用者責任とは、人身事故が発生したときに車の所有者など「運行を支配し利益を受けている人」に発生する責任です。自賠法3条により「自動車の運転を支配し」「自動車の運転から利益を受けている」人に発生します。
通常、交通事故が起こったら「加害者」に対して損害賠償請求をしますが、直接の加害者が保険に入っていなかったり資力がなかったりして、満足な支払いを受けられないケースもあります。そのようなとき「運行供用者責任」を主張すれば、車の所有者などの他の人に対する損害賠償請求が可能となります。
2.運行支配と運行利益
自賠法にもとづく運行供用者責任が発生するには、請求相手に「運行利益」と「運行支配」が必要です。この2つがどういったものなのか、詳しくみてみましょう。
2-1.運行利益とは
運行利益とは、自動車の運転によって利益を受けていることです。たとえば会社が従業員に車を運転させている場合、会社は自動車の運転によって利益を受けていると言えます。
2-2.運行支配とは
運行支配とは、自動車の運転をコントロールする立場にあることです。たとえば車の所有者には通常運行支配性が認められます。
近年では運行利益と運行支配を厳密に分けて検討せず、「運行利益を含めた運行支配」によって運行供用者責任を認めるべきとする考え方も有力となっています。
3.運行供用者責任の立証責任
運行供用者責任と一般の不法行為責任では、被害者の立証の難易度が異なります。
一般の不法行為の場合、以下の要件の立証が必要です。
- 加害者の故意過失にもとづく行為
- 因果関係
- 損害発生
一方運行供用者責任の場合、以下の要件を立証すれば足ります。
- 運行供用者性(運行利益と運行支配)
- 自動車の運転
- 損害発生(人身損害に限られる)
つまり運行供用者責任の場合、被害者は「加害者の故意過失による行為」を立証する必要がありません。加害者側が責任を免れるために「故意過失がなかったこと」「第三者に責任があったこと」などを証明する必要があります。被害者にとっては立証が容易です。
4.運行供用者責任が認められる具体例
具体的にどういったケースにおいて運行供用者責任が発生するのでしょうか?
4-1.自動車を知人、友人に貸していた
自動車を貸していた知人や友人が事故を起こした場合、所有者に運行供用者責任が発生します。
4-2.レンタカー会社
レンタカーで事故が発生したときにはレンタカー会社に運行供用者責任が認められるケースが多数です。ただし利用者が返却期間を過ぎても返却しなかった場合などにはレンタカー会社に責任が発生しない可能性があります。
4-3.会社が従業員に運転させていた
会社が従業員に営業車などを運転させていた場合、会社に運行供用者責任が発生します。
4-4.自動車を放置していた
自動車をきちんと管理せず放置していたために、誰かに使われて事故が起こったときには所有者に運行供用者責任が発生します。
5.運行供用者責任が否定される例
5-1.リース会社
車のリース会社には運行支配がないので、運行供用者責任が認められないのが通常です。
5-2.所有権留保しているローン会社
所有権留保をする場合、車の名義はローン会社になっています。しかしローン会社は実際に運行を支配していないので運行供用者責任は認められないのが通常です。
5-3.過失なく自動車を盗まれた
きちんと車を管理していたのに盗難被害に遭い窃盗犯などが事故を起こした場合、所有者には運行供用者責任が発生しません。
6.運行供用者責任は人身損害に限られる
運行供用者責任が発生するのは人身損害に限られ、物損については責任が認められません。
交通事故に遭ったとき、直接の加害者以外の人に請求できるケースや方法は意外とたくさんあります。直接の加害者から支払いを受けられなくてお困りの場合でも、あきらめずに弁護士までご相談下さい。