交通事故では被害者に過失があると「過失相殺」が適用されて賠償金が減額されます。
また被害者が先に別の支払を受けていると「損益相殺」が適用されてやはり賠償金が減らされます。
過失相殺と損益相殺の両方が行われる場合、どちらを先に適用するのでしょうか?実は適用の順序によって受け取れる賠償金の金額が変わるので、被害者にとっては非常に重要なポイントです。
今回は過失相殺と損益相殺の先後関係について、解説します。
1.過失相殺とは
過失相殺とは、被害者に過失割合がある場合にその割合の分、賠償金を減額することです。
たとえば被害者の過失割合が3割であれば、賠償金を3割減額します。
2.損益相殺とは
損益相殺とは、交通事故によって被害者がお金を受けとったとき、受け取った金額を賠償金から控除することです。損益相殺の対象となる給付は以下のようなものです。
- 労災保険からの給付
- 健康保険からの給付
- 国民年金・厚生年金・公的共済年金からの給付
- 介護保険からの給付
- 自賠責保険から支払われた保険金
- 政府補償事業によるてん補金
- 無保険車傷害保険の保険金
- 人身傷害保険の保険金
- 所得補償保険の保険金
3.過失相殺と損益相殺、どちらを先に適用すると得になる?
過失相殺と損益相殺の両方が適用される場合、どちらを先にすべきかで被害者が受け取れる金額が変わります。
結論として、損益相殺を先に適用し、過失相殺を後で適用した方が被害者の手取り額は上がります。たとえば500万円の損害が発生していて被害者の過失割合が3割、被害者が健康保険から50万円を受け取ったとしましょう。
3-1.先に損益相殺を適用
損益相殺を適用すると、500万円-50万円=450万円です。
過失相殺により、この金額から3割減とするので、被害者に支払われる金額は450万円×0.7=315万円となります。
3-2.先に過失相殺を適用
先に過失相殺を適用して3割減額するので、500万円×0.7=350万円となります。
ここから損益相殺を行って50万円を控除するので、被害者に支払われる金額は300万円です。
このように「被害者としては先に損益相殺を適用した方が得になる」ことを、まずは押さえておいてください。
4.過失相殺と損益相殺、どちらを先に適用すべき?
過失相殺と損益相殺のどちらを先に適用すべきかについては、損益相殺の内容によって異なります。
以下で場合分けしてみていきましょう。
4-1.先に損益相殺するもの
- 健康保険からの給付
- 国民年金、厚生年金(老齢年金)
- 所得補償保険
これらに共通するのは、被害者の過失に関係なく「損害の補償」を目的としていることです。損害自体を補償するものですので、被害者の過失によって減額すべきではありません。
また健康保険は「社会保障的な性質が強い」ので、過失相殺を適用すべきではないと考えられます。所得補償保険も、被害者が自己防衛のためにあらかじめかけておいたものですので、損害の補償を目的としたものといえ、過失相殺の対象になりません。
4-2.先に過失相殺した後で控除されるもの
- 自賠責保険
- 人身傷害補償保険など、加害者が加入している任意保険
- 労災保険
これらに共通するのは「損害の賠償」と目的としていることです。賠償という以上は賠償者の責任を前提としており、被害者側の過失割合も考慮すべきということになります。
よって被害者側の過失相殺を行った上で損益相殺を行います。
なお労災保険については平成元年4月11日に最高裁が「過失相殺適用後に損益相殺を行う」という趣旨の判断をして以来、先に損益相殺を適用する方法が通例となってきています。
5.過失相殺、損益相殺で疑問があれば弁護士までご相談を
交通事故の被害者にとって、過失相殺や損益相殺は非常に重要なポイントとなります。どちらを先に適用すべきかにより、受け取れる賠償金が大きく変わるケースも少なくありません。疑問や不満がある場合には、お気軽に弁護士までご相談ください。