従業員が交通事故を起こしてしまったら、会社にはどういった責任が及ぶのでしょうか?
雇用者である企業には、被害者への賠償金支払いなどの対応の他、労災に関する対応も要求されます。
今回は従業員が交通事故を起こしてしまった場合の会社の責任について弁護士が解説します。
1.従業員が交通事故を起こして会社に責任が発生するケース
従業員が交通事故を起こすと、雇用主である事業者にも責任が発生する可能性があります。
1-1.使用者責任
使用者責任とは、従業員を使って利益を得ている雇用主に発生する責任です。従業員が業務の遂行中に行った不法行為について、使用者に責任が及びます。
業務の遂行中かどうかは「外形的」に判断されるので、実際には業務中ではなくても外目に業務中のように見えれば使用者責任が発生する可能性があります。
- 営業外回り社員が営業車で交通事故を起こした
- 従業員が会社のロゴマークの入っている社用車で業務時間外に交通事故を起こした
- 従業員が業務時間中に仕事で使っているマイカーで交通事故を起こした
上記のような場合、使用者には使用者責任が発生するので、事故を起こした従業員本人と連帯して被害者へ賠償金を払わねばなりません。
1-2.運行供用者責任
会社には「運行供用者責任」も発生する可能性があります。運行供用者責任とは、自動車によって利益を受けているものが負うべき責任です。
車の運行を支配して利益を受けている場合に運行供用者責任が発生します。具体的には「車の所有者」には車に対する運行支配や運行利益があると考えられています。
事故を起こした車の「名義」が会社になっていれば、通常は会社に運行供用者責任が及ぶと考えましょう。
たとえば従業員が業務時間外に社名やロゴマークの入っていない社用車を運転していた場合には使用者責任は発生しませんが、車が社用車で会社名義になっていたら運行供用者責任が発生する可能性があります。
1-3.従業員が被害者になれば労災認定される
従業員が交通事故の「被害者」になる可能性についても考えておくべきです。従業員が通勤退勤途中や業務中に交通事故の被害に遭えば「労災」となります。
その場合、事業主としても労災保険の申請に協力したり労働基準監督署へ報告したりしなければなりません。
2.任意保険に入っていれば賠償問題は保険会社が対応する
会社に使用者責任や運行供用者責任が発生するケースでも、「任意保険」が適用される場合には難しい対応は不要です。
任意保険には対人対物賠償責任保険がついているので、被害者へ支払うべき賠償金は保険会社が負担します。また被害者との示談交渉も保険会社の担当者が進めるので、事業主が直接被害者と話し合ったり賠償金を支払ったりする必要はありません。
3.保険が適用されない場合の対処方法
任意保険が適用されない場合には会社や従業員自身が被害者と示談交渉を行って賠償金を支払わねばなりません。ただし事業者が被害者へ賠償金を支払った場合、事故を起こした従業員に対しては「求償」できます。求償とは、連帯債務者に対して本人の負担分を請求することです。
たとえば発生した損害が1,000万円で会社側の責任が4割、本人の責任が6割とします。この場合、会社が被害者へ1,000万円の全額を賠償したら、会社は従業員へ600万円を求償できます。
4.労災対応
従業員が交通事故でけがをした場合などには、労災対応が必要です。労災隠しは犯罪になるので、決してやってはなりません。
まず従業員が労災保険を申請する際には療養補償給付や休業補償給付用の申請に協力しましょう。労働者が休業する場合、1~3日目までの休業補償は事業主が行う必要があります。
また従業員がけがで休業したり死亡したりした場合、事業者は労働基準監督署へ「労働者死傷病報告」をしなければなりません。
交通事故が起こった原因が企業の管理不行届きや安全配慮義務違反による場合、企業が労働者へ損害賠償義務を負う可能性もあります。
自社従業員が交通事故を起こした場合、企業には状況に応じた適切な対応を要求されます。当事務所では千葉県の中小企業への法的支援やアドバイスを積極的に行っていますので、お気軽にご相談下さい。