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人身傷害補償保険を示談金より先に受けとるべきか後で受けとるべきか

2019-12-11

交通事故に遭ったとき、加害者の保険会社による「対人賠償責任保険」だけではなく被害者自身が加入している保険会社から「人身傷害補償保険」を受け取れるケースがあります。

 

実は加害者からの賠償金と被害者の人身傷害補償保険の「どちらを先に受け取るか」で最終的な受取金額に違いが発生してくることがあるので、要注意です。

 

今回は人身傷害補償保険と相手方の対人賠償責任保険のどちらを先に受け取ると有利になるのか、千葉の弁護士が解説します。

 

 

1.人身傷害補償保険は相手からの受取金が控除される約款となっている

人身傷害補償保険は、被害者や被害者の同乗者が交通事故で死傷したとき、発生した人身損害についての支払いを受けられる保険です。

ただし被害者が加害者や加害者の保険会社から損害賠償金を受け取った場合には、人身傷害補償保険から既払い金額が控除される約款になっています。加害者からの賠償金と人身傷害補償保険の「二重取り」が好ましくないためです。

 

1-1.被害者の過失割合が0なら問題にならない

被害者の過失割合が0の場合には、この条項があっても特に問題にはなりません。加害者から発生した損害の全額を払ってもらえるからです。

 

1-2.被害者に過失割合があると受取金額が減額される

一方、被害者に過失割合がある場合、加害者からは全額の支払いを受けられません。過失割合に相当する部分が未払いになっています。

それであれば、被害者の過失部分を人身傷害補償保険によって払ってもらえないのでしょうか?

実は人身傷害補償保険の約款により、それは難しくなっています。人身傷害補償保険は先に説明した通り「相手から支払われた賠償金を差し引く」計算となっているからです。

 

たとえば2,000万円の損害が発生しており被害者の過失割合が2割とします。人身傷害補償保険で計算された金額が1,500万円としましょう。

被害者が先に示談金として1,600万円を受け取ります。すると1,500万円から1,600万円を引き、マイナスになるので人身傷害補償保険は支払われません。

結局被害者が受け取れるのは1,600万円の示談金のみで、「自分の過失割合に相当する400万円の支払いは受けられない」結果になります。

 

2.人身傷害補償保険を先に受けとると全額の賠償金を払ってもらえる

人身傷害補償保険を先に受け取った場合にはどうなるのでしょうか?

この場合にもやはり「損害賠償金の二重取り」は認められないので、相手から支払われる賠償金から人身傷害補償保険による受取金額が減額されます。

ただしこの場合、人身傷害補償保険は「被害者の過失割合に相当する部分に先に充当」されます。

たとえば先と同じ例で、損害賠償額が2,000万円、人身傷害補償保険が1,500万円、被害者の過失割合が2割の事案を考えてみましょう。

被害者が人身傷害補償保険から先に1,500万円受け取ります。その後示談が成立したら相手からは1,600万円支払われるはずですが、先に人身傷害補償保険から1,500万円の支払を受けているため控除されます。発生した損害は2,000万円なのでそこから1,600万円を差し引き、残りの400万円が相手から支払われます。

結果として被害者は総額2,000万円全額の支払いを受けることが可能となります。

 

3.約款の改定による修正効果

このように、被害者に過失割合が認められる場合、基本的には示談金よりも人身傷害補償保険を先に受け取る方が有利になります。

ただしどちらを先に受け取るかによって結果が変わるのは不合理であると批判されたため、各保険会社で約款の改定が進められました。結果、多くの保険会社において「裁判の判決または和解で解決したときには、裁判で算定された金額を人身傷害補償保険で支払うべき損害額とみなす」という規定がもうけられています。

これにより、どちらを先に受け取るかで最終的な受取金が変わる問題はおおむね解消されています。

 

ただし上記が適用されるのは「裁判の判決または和解」で解決するときだけです。示談交渉や調停、ADRなどで解決するときには、依然として保険会社基準で人身傷害補償保険が計算されるため、示談金を先に受け取ると不利になる状況が発生する可能性があります。

 

被害者が保険によって充分な補償を受けるには法的な知識が必要です。千葉で交通事故に遭われて保険金額の計算方法がわからない方、保険会社ともめてしまった方、不安や疑問をお持ちの方は、お気軽に弁護士までご相談下さい。

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